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レクチャーパフォーマンスを終えて

ビヘイビアプロジェクトのレクチャーパフォーマンスを、2025年2月14-16日に代官山ヒルサイドテラスにて上演しました! 2018年にメンバー探しをスタートしてから7年。コロナ禍を乗り越えてようやくここまで辿り着きました。フィールドワークのリサーチ協力から公演制作に至るまで、プロジェクトをサポートしていただいた皆さん、本当にお世話になりました。

約3週間の東京滞在制作、2日間の公演準備と3日間の公演、本当に濃厚で充実した時間でした。アート関係者の方の話によると、普段の劇場公演では開演前の客席は静かなのに、今回の公演は話し声がたくさん聞こえて、劇場や美術館に普段あまり足を運ばないような人たちが観に来ていたんじゃないか、とのこと。僕自身も、観客の皆さんが作品のテーマに興味を持ってきてくれたんだなということを感じました。公演後のトークセッションでも、観客の皆さんからの熱量を感じました。たくさんのコメントや質問をもらってそれに答えながら、ふるまいについて考えを深めるとても良い機会になりました。ご来場いただいた皆さん、本当にありがとうございました。

ビヘイビアプロジェクトは今後、ドキュメンタリー映像としても配信予定です。トークセッションでも、このプロジェクトを何かの形で残して欲しいという声をいただきました。1つの会場で週末3日間のみの開催ということで、忙しくて時間が取れなかった方々、遠方から足を運べなかった方々もたくさんいらっしゃったと思います。今後は、映像作品としても広くさまざまな方に見ていただければと思っています。

公演後も様々な業務に追われていて、気づけば公演からもう1ヶ月半。今日は、今回の公演について僕なりに振り返って記事を書きたいと思います。

作品構成について

まず、作品を観ていない方々のために作品構成を少し説明すると、今回のレクチャーパフォーマンスは、下記の8つのシーンで構成されていました。

0. プロローグ – プロジェクトの紹介

1. ワン・ジャーミン – 身体に埋め込まれたふるまいのコードを読み解く

2. ナ・ヘヨン – 負の感情を他者とどう共有すればいいのか

3. シマダタダシ – こうあるべきという社会の基準から距離を置いて自分の声を確かめる

4. イエ・ヒョスン – オープンな上下関係はどうしたら築けるか

5. ウェイ・マン – 家族という役割を演じること

6. 北川結 – 気を遣うことについて

7. エピローグ – 私たちは社会の中でふるまい続ける

以上が全体構成です。一言でいえば、ダンサーたちがフィールドワークから着想を得てテーマを設定し、1人のダンサーが1つのシーンを担当し、それが6シーン続けて上演される、というのが基本的な構造です。1つのシーンは5分のプレゼンテーションと7分のパフォーマンスで構成され、メインダンサーが1人だけでステージに立つのではなく、他のダンサーたちもプレゼンテーションやパフォーマンスに参加して、一緒にシーンを作り上げる形式をとっています。

公演は、シーン毎に独立して鑑賞するオムニバス形式ではなく、全体として1つのストーリーに見えるような構成をとっています。公共性や監視といった社会性の高いテーマのあとに、家族や感情といった個人的なテーマが続くといったように、6つのシーンを対照的に表現したり、あるいは共通性や同時代性が暗示されることで、1つの物語の繋がりを保つように構成されています。また6人のダンサーがお互いに相手のシーンに出演していることも、1つの統合された作品を構成する上で重要な要素になっています。

公演は、ダンサー本人が実際に感じたことを語って演じるという「リアリティーショー」なので、具体的な1つひとつのテーマやパフォーマンスの詳細については、僕から説明するというよりも、今後配信予定のドキュメンタリーや記録映像などで彼らの発言を交えた形で、改めて観ていただければと思っています。また、実際に作品を観ていただいた数名の方々にレビュー記事をお願いしていて、近日中に公開予定ですので、そちらもぜひ読んでみてください。

6つのシーンはどのように生まれたのか

今回は、作品の企画/構成/演出の担当者という立場から公演を振り返って、6つのシーンがどのように生まれたのかについて、改めて皆さんに少し紹介したいと思います。

まず2024年5-7月に東京/ソウル/北京の3都市に1週間ずつ滞在して、3か国のダンサーと一緒にふるまいのフィールドワークを行いました。電車、公園、商業施設、オフィス、学校など、様々な場所を訪れてふるまいを観察します。観察の様子はすべて映像で記録していて、それがレクチャーパフォーマンスやドキュメンタリーの中でも使用されています。

また観察を終えたあとに、近くのカフェに入って2時間くらい議論する時間も重要です。観察の中での気づき、自分の住んでいる都市との違い、自分自身は日頃どうふるまっているか、その背後にある考えや感情、個人的な経験について話します。たぶん観察そのものより、そうした対話により多くの時間を割いていたのではないかと思います。

ダンサーのみんなとの議論の記録もすべて映像で記録していて、これが各シーンのテーマ決めやプレゼンテーションの台本を検討する上でとても重要なデータになります。フィールドワークがひと通り終わって自宅に戻ったあと、ダンサーたちはフィールドワークを振り返りながら自分が取り組みたいテーマを考えますが、僕はみんなとの議論をすべて文字起こして「物語分析」を行います。1つひとつの発言の内容を分析して分類し、発言ごとに「フラグ付け」を行うのが主な作業です。たとえば、感情ということについて誰かが話していたら「感情」のフラグ、公園についての話であれば「公園」のフラグをつけておけば、あとで感情や公園に関する全員の発言を抽出することができる、一種のデータベースのようなものを作ります。

計6週間のフィールドワークのあいだ、誰がいつどんなことを話したのか。自分の記憶だけに頼っていると、僕自身が強く印象に残った話に偏って思い出すようになります。物語分析という手順を踏むことで、より客観的に、誰が何についてどのくらい話していたかが分かるようになります。文字起こしはNottaというオンラインサービスを使って自動で行ってくれるので手作業よりはずいぶん楽ですが、とにかくデータ量が膨大なので、データ整理からひと通り分析を終えるまで2か月くらいかかりました。

シーンごとのテーマを決めて作品制作を進める

その後、2024年10月から約3か月かけて、6人のダンサーと個別に何度もオンラインミーティングをしながら、各シーンのテーマ決めや具体的なレクチャーパフォーマンスの内容を決めていきました。まず、ふるまいに関連してどんなテーマに興味を持ったか、各ダンサーから具体的な話を聞きます。また、物語分析をもとに、あなたはこんなテーマに興味を持っていて、こんな話をしていたよね〜、というような情報を僕からも共有しながら、テーマを決めていきます。

ダンサー自身でテーマや構成をある程度固めて提案したダンサーもいれば、まず僕の分析を聞いてそれを踏まえてテーマを決めたダンサーもいました。また、テーマからプレゼンテーションの台本まですべて僕の方で一旦書いて渡した上で、それをアレンジするといったパターンもありました。このようにダンサーごとにプロセスは若干異なりますが、それは対話のキャッチボールをどう行うかの違いだけで、各シーンのテーマやプレゼンテーションは、各ダンサーと僕との対話を通じて共同制作されたいえるでしょう。

パフォーマンスについては、ダンサーが主体となって企画していますが、テーマとプレゼンテーションを踏まえるとこんなパフォーマンスもありだよね、と僕の方から提案することもありました。ある程度のプランは事前のオンラインミーティングでやり取りしていましたが、パフォーマンスというものは、ダンサー全員で集まって実際に身体を動かしてみないとイメージできないところもたくさんあります。本格的な詰めの作業は1月下旬に中韓ダンサーが来日して滞在制作の期間に入ってから始まりました。

ダンサーたちが即興で動きながらパフォーマンスを組み立てたり、音楽の額田さんも交えながらみんなで議論したり、僕からこんな動きをしてみてはを提案したり・・・。ビヘイビアプロジェクトは、ダンサー本人が実際に感じたことを語って演じるという「リアリティーショー」なので、個々のダンサーが何を感じ、何を表現したいかが常に一番重要でしたが、とにかくすべてが対話で決まっていく、そんな現場でした。

台本はどのように出来上がったか

公演の1週間前には6人分のプレゼンテーション台本が完成し、それを母国語/英語/日本語の3ヶ国語で準備します。日本のダンサーとは日本語の台本でやり取りして最終版が出来上がったら英訳すればいいのでシンプルですが、中韓のダンサーの台本制作は複雑です。ダンサーと僕のあいだの原稿のやり取りは英語です。英語の最終版が出来たところで、各ダンサーには、母国語で、かつ自分の話しやすい言い回しで台本を書いてもらいました。本番では彼らは自分の書いた母国語の原稿を元に話し、舞台背面に日英字幕を表示します。僕はこの日本語字幕の台本を準備するのですが、原稿のやり取りに使用していた英語版に加えて、ダンサーが書いた母国語版を機械翻訳にかけて、その両方を見ながらニュアンスを理解し、日本語版の台本を書いています。また最終版を作成した段階で、表現のニュアンスに齟齬がないかどうか、通訳者の方にもアドバイスをもらい、英語については僕のパートナーにネイティブチェックをしてもらって、下記のような台本がようやく完成しました。

公演を終えて、改めて感じたこと

公演が出来上がってみて、僕としてはまず、やりたかったことがようやく実現したなあ、という感じです。作品構成は当初からほぼ変わっていませんが、具体的にどんなテーマで、どんなプレゼンテーションやパフォーマンスになるのか、というのは、集まったアーティストたちとの化学反応次第。僕としては、プロジェクトの中での自分の役割を果たすためにベストを尽くした上で、あとはその場で生まれてくるものを最初の観客として観る、というような感覚でした。

公演では僕は映像のオペレーションを担当していたので、本番中は下手(舞台左側)の操作卓から観ていました。僕自身、舞台で起きることに釘付けになって、ゾクゾクしたり、ウルッときたり、そうだよなぁと共感したり、何が起きるか分かっていても、観客の1人として、心が揺り動かされる感覚がありました。そしてやっぱり、ここまで来れたのは、いい仲間に恵まれたんだなぁと改めて感じました。

言葉がうまく見つからないのですが、みんな違って、みんないい、という感じでしょうか。中国の2人は社会で起きている物事と自分自身との関係をロジカルに分析して語るのがとてもうまいんだけど、韓国の2人は対照的にすごく感覚的で、とにかく自分の感性で直感的に進めていく。そして日本の2人は内省的に自分自身を観察するのが得意。これは3つの国の特性ということではなく、今回そういうメンバーが集まったということだと思うんですが、こうしたばらつきがあることによって、作品制作のプロセスが1つの型にハマらなくなりました。

全員このプロセスで進めなければならないといった「基準」のようなものがなくなると、人はその場の状態に応じてベストを探すようになります。ルールや社会規範に則るのではなく、その時点でのベストを探すことで、その結果として「個」が生きてくる。これは作品制作だけでなく、組織など社会の中での人のふるまいにも、共通するところがあるんじゃないかと思っています。

プロジェクトは今後も続きます!

さて、公演のプロセスを改めて振り返ってみましたが、観客の皆さんが作品を体験してどう感じたか、色々と話を聞きたいなと思っています。答えていただいたアンケートを見返したり、作品を観にきてくれた僕の友人たちをご飯に誘って、何を感じたのか色々と話を聞いたりしているところですが、もっと多くの人の話を聞けたら嬉しいです。ぜひご飯やお茶しながら話しましょう〜!

本当は、韓国や中国でもこの公演ができたらいいなと思っているのですが、実現のためには現地のプロデューサーの協力が不可欠で、今のところ目処は立っていません。もしサポートしていただける方、ご紹介いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけいただけたら嬉しいです。

冒頭に書いた通り、ビヘイビアプロジェクトとしては今後、ドキュメンタリー映像の制作に注力していく予定です。また「ふるまい」というテーマはアートだけでなくデザインにも関連してくるテーマでして、オフィスのふるまいを変えるプロジェクトや、災害発生時の人のふるまいを設計する、といったデザインプロジェクトも、公演制作と並行して動いていました。ふるまいを変えていくこうした「実証実験」についても、そのうち皆さんにご報告できたらと思っています。

まずは公演を終えて、ご参加&サポートしていただいてすべての方に改めて、感謝したいと思います。また次の機会にお会いしましょう〜!