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開催レポート|トークセッション #04「韓国ダンサーと哲学者の視点で観察する日本のふるまい」

ビヘイビアプロジェクトは、私たちが日常何気なく行っている「ふるまい」に焦点をあて、ふるまいの成り立ちとこれからを探る実験的プロジェクトです。日中韓の3カ国から、身体表現の専門家であるダンサーが2人ずつ、計6人が参加し、レクチャーパフォーマンス形式での作品上演とドキュメンタリームービーの発表を予定しています。

東京・ソウル・北京でのフィールドワークの一環として、韓国人ダンサーのイエ・ヒョスン氏とナ・へヨン氏が、7月3〜9日まで東京に滞在し、さまざまな場所で人々の「ふるまい」をリサーチしました。今回のトークイベントでは2人を迎え、フィールドワークの報告とその中で気になった東京の「ふるまい」から4つの問いを立てて共有しました。

ダンサーだけでなく、歴史や経済、認知科学などさまざまな分野の研究者もアドバイザーとして参加している、ビヘイビアプロジェクト。トークセッションシリーズ最終回となる今回のゲストには、哲学者の山森裕毅さんをお招きし、「韓国ダンサーと哲学者の視点で観察する日本のふるまい」というテーマで実施しました。

ゲスト山森裕毅氏|哲学とは“前提”について改めて考える営み

トークの前半は、ゲストである山森氏の自己紹介とショートレクチャー。20世紀のフランス哲学や記号論、メンタルヘルスを専門とする山森氏は、学問としてではなく、実践としての哲学を模索しながら、私塾を開き、哲学と対話の実践を行っています。

まず山森氏は、哲学者 高秉權(コ・ビョングォン)の言葉を引用して、「哲学とは」について紹介。

「一言で言って、哲学は異なった仕方で感じることであり、異なった仕方で考えることであり、つまるところ、異なった仕方で生きること」であり、私たちの日常に密接した学問だと語ります。

さらに、「哲学とは、この世界がこういうふうであることを支えている『当たり前』や『常識』、つまりこの世界に対して私たちが疑うことなく抱いている“前提”について改めて考えてみる営みのことである」と山森さんは述べます。こうした姿勢は、ビヘイビアプロジェクトの「ふるまい」に問いを持って向き合う実践と多いに共通点があるように感じました。

続いて、「ふるまい」についての先行研究として、坂部恵氏の著書『〈ふるまい〉の詩学』を引用。「ふるまい」は「ふり(振り)」と「まい(舞い)」に分けられ、「ふり」とは模倣(mimēsis)・真似することであり、誰かの真似=学びを通して、例えば「私は○○会社の人である」「私は親である」に至る。そのプロセスを「ふるまい」だと坂部氏は考えている、と紹介します。

そこから掘り下げていくと、「『ふり』とはそれを見る他者を前提としている」「『ふり』は自分を○○の人として他者に示すと同時に、そうではない自分を隠蔽するものでもある」といった形で、「ふるまい」の概念を発展させることができます。その上で今度は「他者を前提としない〈ふるまい〉は本当に存在しないのだろうか?」と反論を立てることで、問いをさらに深めていくという、哲学的実践の例を示しました。

東京でのフィールドワークを経て生まれた4つの問い

次に、韓国人ダンサーが1週間、東京で行ったフィールドワークの内容を報告。これまでのリサーチと同様に、「公共交通機関」「公共空間/コミュニティ」「ビジネス/オフィスワーク」「ショッピング」「教育/家族」「飲食」「寺/宗教」という7つのテーマに沿って、さまざまな場所を訪問し、現地の人と交流したり、比較・観察を行ってきた様子を共有しました。

そうした観察を踏まえて、イエ・ヒョスン氏とナ・へヨン氏が4つの問いを立て、トークの参加者に投げかけました。

1つ目の問いについて、イエ・ヒョスン氏が東京のまちなかで出くわした光景について語りました。

ヒョスン「東京では、エスカレーターの右側は歩く人のために空けておきますよね。今日、長いエスカレーターの右側でずっと止まっている人がいて、歩いて早く進みたい人の列ができていました。でも周りの人は何も声をかけなかった。でも、自分だったら『前に進んでよ』とか何か言うと思う。それを見て、表現に対する何か制限みたいなのがあるような気がしました」

それに対して参加者からは、「東京の人はコミュニケーションをシャットダウンしているように見える。エスカレーターは歩かないというルールができたが、ルールを守っているのはトラブルを起こさないようにしているだけだと思う」「空けておくべき列で立ち止まっている人を見ると、何か変な人だという印象を持ってしまう。だから変な人と関わりたくないという気持ちで声がかけられないこともある」といった意見が出ました。

このやり取りの最後に、山森氏は、無関心のふりをすることがマナーとされる「儀礼的無関心」という概念を紹介し、まさにそれが実践されている事例だと述べました。また、エスカレーターで誰も声をかけなかった件については、関東と関西では少し反応が違うかもしれないという点に触れつつ、日本では他者に声をかける時の表現のバリエーションが少ないのでは、と指摘します。例えば、苛立ちながら「邪魔だ」と言うと相手が悪いことになるけれど、シンプルに「通して欲しい」と言えば、こちらの都合で急いでいるというニュアンスを伝えることができます。声をかけられてもトラブルにならず、円満に解決できるような表現の幅を広げていくことも大切なのではと語ります。

2つ目の問いについて、ナ・へヨン氏が東京で受けた印象について話します。

へヨン「食事の仕方とか、人と人が初めて出会う時の方法とか、日本人だけが知ってる隠れたマナーを感じました。百貨店に行った時に写真を撮ったら店員さんに注意されて、理由を聞いたら『服のデザインをコピーする人がいるのでダメです』と言われました。でも、Webサイトにも写真はすでに載っていてコピーしようと思えばできてしまうし、なぜ撮影がダメか再度聞いたら、『それがマナーだ』と言われました。マナーという言葉は東京でよく聞くし、それはルールとどう違うのか、皆さんの意見を聞きたいです」

この質問に対して、参加者からたくさんのコメントが寄せられました。

参加者「マナーがどういう機能を果たしてるかというと、集団の中で同じマナーを守ってることを確認し合って、団結意識を生んだり、そこに該当しない人を排除する力があるなと思います。ジリアン・テット(※)がウォールストリートでフィールドリサーチをして、エリート金融マンたちの会議の様子がある種の民族儀礼のようだと言っています。会議の進め方とか、共通の趣味を前提にした話とか、ジョークが通じるか通じないかによって、自分たちが選別されたエリートであることを確認し合う役割があると思います」

※:アメリカのフィナンシャル・タイムズで働くジャーナリスト。文化人類学の博士号を持つ。

参加者「ルールかマナーかという問題でいうと、マナーを守るのはそこに共通の前提があるから。マナーが機能しているときは良いけれど、マナーが破られて社会が機能しなくなると、そこからルールに変わっていくんだと思います」

参加者「共同体に残っているふるまいには、元々秩序を守るために何かしらの機能があったのではないか。やがて習慣としてのふるまいだけが残って、それを必要としていた社会構造がなくなったり、必要な理由がわからなくなった時に『マナーです』と言っている気がします」

ディスカッションも白熱し、残り時間もなくなってきた中で、3つ目の問いは共有だけにとどめ、4つ目の問いについて来場した参加者と意見交換しました。

こちらは、20代の頃に東京で暮らしたことがあるヒョスン氏が久しぶりに東京を訪れて感じたことから生まれた問いです。渋谷で急いでどこかに向かって歩いていく人たちを見ながら、全てがすごい早さで変化する中で、「この人たちは何を幸せと感じているのだろう」と思ったそう。そんなヒョスン氏は、生活と働くことのバランスをとり、いつまでも踊り続けることが幸せだと思っているといいます。

このストレートな投げかけに対して、会場からは、自分が幸せだと思う瞬間についてや、喜びと幸せの違い、幸せと思う状態とは何かという哲学的な問いなど、さまざまな応答がありました。

ビヘイビアプロジェクトを主宰する中澤大輔氏は、「自分の親の世代は結婚して子どもを育てるというのが幸せだと思っていました。でも、自分の世代は子どもがいない方が自由だと思う人もいるし、結婚するよりもパートナーという関係のほうがいいと思ってる人もいる。選択肢が増えて、逆に選択肢がありすぎて、何が幸せかわかりにくいのかもしれない」と指摘しつつ、「幸せというのは、ふるまいと少し遠いような気もするけれど、社会の中で自分をどこにポジションしていくかとか、その中でどうふるまうかみたいな、一人の人が全て決められることよりも、文脈の中で決まっていくところがあるので、社会やふるまいについて改めて考えるすごくいいきっかけになったと思います」と締めくくりました。


The Behaviour Project talk session #04 「韓国ダンサーと哲学者の視点で観察する日本のふるまい」

日時|2024年7月9日 (火) 19:00〜21:00(受付開始18:30)
出演|山森裕毅、イエ・ヒョセウン、ナ・へヨン、シマダタダシ、北川結、中澤大輔
対象|社会人、学生、アーティスト、ふるまいに興味のある方は、年齢に関係なくどなたでも大歓迎です。
通訳|島田芽生(日本語・韓国語 / 逐次通訳あり)
定員|20名
参加費|無料
会場|渋谷スクランブルスクエア15階 SHIBUYA QWS クロスパーク
主催|architecting stories合同会社 ビヘイビアプロジェクト